バスキュラーアクセスに使われる血管や人工血管には、狭窄(狭くなる)や閉塞(詰まる)が起きたり、感染や瘤ができて腫れたりと、さまざまなトラブルが起こります。また、シャントが原因で手や腕が腫れる静脈高圧症や手や指が冷たく紫色になるスチール症候群などを引き起こします。
1日おきに穿刺(針を刺す)すること、手術痕の癒着、血管のひきつれ、動脈の血液が静脈に流れ込むこと、シャントが流れすぎることなどが、トラブルの原因となります。
シャント管理は医師や病院スタッフだけではできません。大きなトラブルになる前に、患者さん自身が日頃から注意を払っていただき、普段と違う兆候がないかどうか、ご自身で常に観察を怠らないことが重要です。
シャント狭窄
シャントが狭くなると、以下のような兆候が現れます。
- シャント音が弱く音が短い
- ヒューヒュー、ピーピーとすきま風のような高いシャント音がする
- スリル(触ってザワザワする感じ)が弱い
- 透析時に静脈圧が高くなる
- 枝がたくさん出ている
- シャント側の腕がむくんだり、しびれがある
シャント閉塞
シャントが詰まると、以下のような兆候が現れます。
- シャント音がしない
- スリルを感じない
- シャントのつなぎ目のみドキドキする
- シャント血管が硬かったり、赤くなっていて、痛みを感じる
閉塞は、血栓(血のかたまり)ができてしまったり血管が細くなって詰まったりすることで起こります。
感染
頻繁な穿刺やシャント、人工血管、カテーテルなどは細菌に感染注意が必要です。感染すると赤く腫れたり、痛みを感じたり、白い膿が出ることもあります。これを放置しておくと大出血を起こしたり、全身感染を引き起こしたりするリスクが高まりますので、早急に治療が必要です。
自己静脈シャントの場合、感染部分を閉じて新たなシャントをつくります。
人工血管の場合には感染度合いによって一部あるいは全部を摘出して取り替えます。
シャント瘤
シャント瘤とはシャントの吻合部あるいは繰り返しの穿刺のために血管が局所的に拡張してコブのように腫れ物が出てきた状態です。下記のような場合は治療を行います。
- 細菌感染が認められる
- テカテカと光沢が見られるようになってきた
- 見た目が気になる
- 骨のように硬くなってきた
- 急激に大きくなった
これを切除し、新たなシャントを上流側に作り直します。
静脈高血圧
シャントの上流の血管に狭窄があり、血液が逆流したりうっ血したりするために腕にむくみ・腫れが生じるものです。中心静脈に狭窄があれば腕全体が腫れ、肘部の静脈に狭窄がある場合には前腕のみが腫れます。心臓に近いところに狭窄があると、肩や顔まで腫れることがあります。
治療としてはPTAが行われますが、場合によってはシャントの閉鎖が必要なケースもあります。
スチール症候群
「スチール」は、盗むという意味の英語です。本来指先に行くはずの血流がシャントに取られてしまうために、栄養や酸素が行き届かなくなって指先が冷たく紫色になり、痛みを感じます。指が壊死するケースもあります。シャントを閉鎖するのがもっとも有効な治療法です。
シャントトラブルの治療
シャントPTA
閉塞や狭窄に対して行う治療です。シャント内にカテーテルでバルーン(風船)を入れて膨らますことで血管を拡張し、閉塞や狭窄を解消します。局所麻酔を使って行い、所要時間は30分ほどです。同時に固まった血栓を取り除いたり血栓溶解剤で溶かしたりします。
PTAは切らずに針を刺すだけで治療が可能です。ただ、再発することが多く、繰り返しの治療が必要になります。
シャント狭窄の治療
経皮的血管形成術(PTA)
シャントに狭窄が見つかった場合には、たたんだ風船を針穴から挿入して膨らませるPTAを行います。終わると風船は引き抜きます。皮膚の切開は伴いません。入院の必要はありません。
シャント再建
狭くなった部分のすぐ上でシャントを作り直します。
シャント閉塞の治療
血栓溶解法+PTA
閉塞部に血栓溶解剤を注入して血管をマッサージし、血流が再開したらPTAをおこなってシャントを確保します。
血栓除去術+PTA
専用の風船を用いて血栓を掻きだして除去します。血流が再開したらPTAをおこなってシャントを確保します。
シャント再建
閉塞した部分のすぐ上でシャントをつくり直します。
シャント関連手術実績
※シャント関連手術に関しては、90%以上が緊急手術で対応させていただいております。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|---|---|
– シャントPTA | 430 | 429 | 551 | 602 | 686 |
– シャント設置手術 | 113 | 93 | 92 | 103 | 98 |
– 人工血管内シャント | 21 | 43 | 35 | 33 | 37 |
– 動脈表在化 | 13 | 7 | 19 | 12 | 11 |
– 長期留置カテーテル挿入 | 32 | 29 | 57 | 51 | 51 |