深部静脈血栓症とは
脚の中心部には深部静脈と呼ばれる太い静脈が走っています。深部静脈の血流は心臓へ向かって流れます。ここに血栓ができるのが深部静脈血栓症です。
長距離のフライトやバス旅行など、脚を下げて座った状態で長時間を過ごしていると筋肉ポンプが働かないため深部静脈の血流が滞って(うっ滞といいます)血が固まり、血栓ができます。
また、入院などで安静状態が長期間続くと血管が拡張して血流が遅くなるために血栓ができやすくなります。
膝下の静脈にだけ見られることもありますが、骨盤の中にまで大量の血栓ができることもあります。
血栓ができると脚全体が腫れて少し紫色に変色します。また痛みや熱を感じるようになります。
エコノミークラス症候群
脚や骨盤の静脈にできた血栓が血流に乗って肺の動脈に達し、肺の血管を突然詰まらせてしまう病気です。血栓は下大静脈から右心房、右心室を通過し肺動脈に達します。肺動脈は肺の中で細かく枝分かれしますので、血栓は肺の入り口で詰まり肺動脈を塞ぎます。大量の血栓が詰まるとその先には血液が流れなくなるため、心臓からの血流が滞って失神したり、心臓に大きな負担がかかって心室細動を起こして突然死したりすることもあります。
飛行機のエコノミークラス席に長時間座っている人に見られたために「エコノミークラス症候群」の名前で呼ばれています。原因となるのが深部静脈血栓症で、長時間座って脚をだらりと下げた状態で過ごすことで深部静脈の血液が凝固して血栓ができます。
深部静脈血栓症の治療方法
深部静脈血栓症が見つかった場合や肺動脈が血栓で詰まっている場合には適切な治療を行う必要があります。
抗凝固療法
薬剤を使って血栓を溶かす治療法です。ウロキナーゼ(血栓を溶かす)やヘパリン(血栓ができるのを抑制する)を使って、血栓が肺動脈に達する前に処置します。この治療は、入院したうえで、24時間連続して薬を投与します。
下大静脈フィルター
脚でできた血栓を腎臓より下の下大静脈に留置したフィルターでとらえ、肺塞栓にならないようにする予防治療です。肺塞栓を起こしつつあるケース、血栓が下肢静脈や骨盤に残っていて肺塞栓のおそれがあるケースなどで留置します。そのまま生涯留置しておくタイプと、不要になったら回収できるタイプがあります。
肺塞栓の治療
肺塞栓が起こって血圧が低下したり心臓が止まりそうになっている場合には、緊急手術で肺動脈に詰まっている血栓を取り除きます。手術まで命がもたないおそれがある場合には、循環と呼吸を補助する装置で生命機能をつなぎ、手術を行います。
血栓が何ヵ月もかかって徐々に肺動脈に詰まるケースを慢性肺塞栓といいます。動くと息切れが起こり、動悸、全身倦怠感、胸の痛みなどで日常生活に支障をきたします。肺に血液が通りにくくなって心臓に負担がかかります。血栓は硬く固まって肺にこびりついているため、丹念に剝しとる手術を行います。
深部静脈血栓症の予防
静脈の血液が滞ることが深部静脈血栓症の原因となりますので、これを防ぐことが予防につながります。
脚を動かす
長時間のフライトやバス旅行などで座りっぱなしの場合には、自分で脚の運動をしっかりと行うことが重要です。また、脱水にならないように水分補給を行うことが大事です。水分補給によって血液の循環が活発になり血栓もできにくくなります。
弾性ストッキング
脚に弾性ストッキングや弾性包帯を着用して脚を圧迫し、血流の滞りを防ぎます。
機械を使う
ふくらはぎなどにマンシェット(血圧計で腕に巻く帯状の器具のようなもの)を巻いて周期的に空気を送り込んだり(間欠的空気圧迫法)、フットポンプで足裏を定期的に圧迫したりすることで、静脈の血流を加速させたりします。間欠的空気圧迫法は、深部静脈血栓症のケースで行うと静脈内の血栓を剥がして、かえって肺塞栓を引き起こすおそれがあるため使用しないのが原則です。