「脚の血行障害」とはどういう病気ですか?
脚の動脈が狭くなったり詰まったりして血行が悪くなる障害です。脚の組織に酸素や栄養が行き渡らないために、足先が冷たくなったりしびれを感じたりします。重症化すると組織が壊死して切断しなければならなくなることもあります。
動脈の血行障害の原因となる病気には閉塞性動脈硬化症、血管の炎症、膠原病、心臓の不整脈の血栓が脚の動脈に詰まる、などが考えられます。
静脈の病気では静脈血栓症、静脈瘤、エコノミークラス症候群などがあります。
「脚の血行障害」でもっとも多く見られるのはどんな病気ですか?
圧倒的に多いのが血管の動脈硬化に伴う閉塞性動脈硬化症です。
閉塞性動脈硬化症はどのような症状が出ますか?
Ⅰ度〜Ⅳ度までのフォンテイン分類というものがあります。 Ⅰ度:足先が冷たく感じたり、しびれを感じます。
Ⅱ度:歩くと脚が痛みます。休むと10分程度で軽快するものです。
Ⅲ度:安静時にも脚が痛みます。常に刺すような痛みが続きます。
Ⅳ度:足先に潰瘍ができ、壊死して黒色に変わります。放置すると切断が必要になることもあります。
なぜ潰瘍や壊死が起こるのでしょう?
血管が詰まって血流が滞っている状態では栄養が運ばれて来ないため、ちょっとした傷でも治らずひどくなり、感染を起こして潰瘍や壊死に至ることがあります。
閉塞性動脈硬化症はどんな人に多く見られますか?
男女比は6:1で男性が多く、70歳前後の方に多く見られるといわれています。動脈硬化のリスクが高い人(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など)、狭心症などの心臓病や、脳梗塞などの脳血管の病気を合併している人に多いのですが、喫煙者が圧倒的に多いという特徴があります。
また糖尿病患者では動脈硬化が進んで重症化する傾向が強く、透析患者はカルシウム沈着の影響でより血管が詰まりやすくなるといわれています。
閉塞性動脈硬化症とわかる自覚症状はありますか?
この病気のもっとも顕著な自覚症状は歩くときの脚の痛み、とくにふくらはぎの痛みです。高齢者では、歩いて脚が痛くなると年のせいで筋肉や膝が痛むのだと思いがちです。もう一つ歩くと脚が痛む病気に脊柱管狭窄症があります。いずれにしても受診して正確な診断を受けてください。
脚の血行障害の診断・検査方法はどんなものがありますか?
足関節上腕血圧比(ABI)検査があります。足関節の血圧/上腕部の血圧の比率を計算します。この値が1.1〜1.2が正常、0.9以下であれば足の動脈の血行障害が疑われます。ABIと同じ機械で血管の硬さを同時に測る(PWV検査)ことができます。 血行障害の疑いがある場合には超音波検査やCT、MRIなどの検査でどの血管がどの程度詰まっているのかを調べます。当院では3D-CTで立体的な全身の血管の様子をチェックできます。
脚の血行障害検査を受ける際、注意点はありますか?
脚に動脈硬化があるということは他の部位でも動脈硬化が進んでいるリスクが高いため、心臓や脳など命に関わる部位の血管を同時に検査しておく必要があります。糖尿病で神経障害がある患者さんの場合には大きな痛みがあっても自覚できないことも多く、発見が遅れるケースもあります。
閉塞性動脈硬化症の治療はどんなものがありますか?
軽症であればまずは運動療法と薬物療法です。
運動療法で側副血行路(自然にできるバイパス血管)の発達を促します。運動を続けることで細い血管も太くなり、血行障害の改善につながります。
薬物療法では血栓予防薬、血管拡張薬で脚への血流を増やして症状の改善を図ります。ただ、薬だけで完治することはありません。
閉塞性動脈硬化症の根本的治療にはどんなものがありますか?
カテーテル治療とバイパス手術です。
カテーテル治療は、狭くなった動脈にバルーン(風船)付カテーテルを入れて膨らませることで血流をよくしたり、狭くなったり閉塞した部分にカテーテルでステント(金網でつくった筒状の器具)を固定して血流を確保します。
バイパス手術は、自分の血管や人工血管を使って、狭くなったり詰まったりした動脈を迂回する血流路を確保する手術です。
その他の閉塞性動脈硬化症の治療はありますか?
高濃度人工炭酸泉浴、骨髄移植、遺伝子治療などがあります。
高濃度人工炭酸泉浴は、高濃度の炭酸ガスを溶けこませた湯に足をつける治療です。血行促進を測る治療法です。
骨髄移植は、自らの骨髄液から血管の基となる細胞を取り出して脚の筋肉に注射し、新しい血管の再生を図る治療法です。ドナーは不要ですが、大量の骨髄液を採取する必要があるため、患者さんの負担はまだまだ大きいというのが実情です。
遺伝子治療では、血管をつくり出す遺伝子を脚の筋肉に注射して新しい血管の再生を図る治療法です。現在、まだ治験の段階で、副作用などについて詳しいことはわかっていません。
脚の血行障害を抱えた患者さんが日常生活で気をつけることは何でしょう?
まずは禁煙です。タバコは血管にとって百害あって一利なしです。血管を収縮させ、動脈硬化を進行させます。
食事では、コレステロールを抑制して、カロリー、塩分を控えることです。お酒も控えましょう。
無理のない範囲で歩くことが大事です。歩くことで血行が良くなり、自然なバイパスが増えて血流を補います。体や脚を冷やさないことも重要です。
また、血行障害があると、靴擦れや水虫などの小さな傷がやがて潰瘍や壊死などを招きかねません。フットケアに気を遣い、足を清潔に保つことが大切です。
脚の血行障害の予防方法はありますか?
生活習慣病の予防と同じで、適度な運動、バランスの良い食事、規則正しい生活が基本です。また、とくにこの病気では禁煙がポイントで、予防策としてもっとも大切です。
この病気の特徴的な自覚症状「歩くと脚が痛み、休むと回復する」があったら、少しでも早く専門医を受診してください。
心臓、脳、脚など動脈硬化で詰まりやすい部位ってあるんですか?
わかりません。心臓や脳の場合にはすぐに症状が出ますが、脚の血管の場合、いきなり重篤な症状に見舞われることもありませんし、高齢で歩くことが少なくなったり車利用が多かったりした場合には自覚症状にも気づきにくいものです。体質などによっても変わると思われますので、一概にどこが詰まりやすいとはいえません。
動脈硬化が起こりやすい場所はあるのでしょうか?
動脈硬化は全身の血管で起こりますが、人によって起こりやすい部位は異なります。また、症状の出やすさも違うため発見されやすい、発見されにくいという違いがあります。心臓や脳などは詰まったり閉塞したりすればすぐに重篤な症状が出ますので発見されやすいのですが、腎臓の血管が動脈硬化で詰まっても腎臓は2つあるため症状が出にくいということがあります。高齢者で動脈硬化がある方は、全身の血管で動脈硬化が進んでいるおそれがありますので、検査を受けることをおすすめします。
手に動脈硬化があって血行障害を起こすことはあるのでしょうか?
あります。ただ、脚より筋肉量が少なく、ずっと筋肉を動かし続ける歩くような運動が少ないこと、血行障害に対してバイパスができやすいなどの理由で、症状が出にくいといわれています。ただ、腕の付け根、鎖骨あたりの動脈が詰まったりすると症状が出ることがあります。
脚に動脈硬化による血行障害がある場合、問題は脚以外にもあるのですか?
脚に動脈硬化による血行障害があるということは、全身の血管に動脈硬化が起こっているおそれも否定できません。とくに心臓や脳の血管に動脈硬化や血行障害が起これば命に関わるため、検査、診断、そして治療が必要です。
脚の血行障害と疲労の違いはどこで判断できますか?
血行障害では歩いている最中に痛みが出ます。夜中や安静時に痛みが出るのは疲れや神経痛によるものの可能性が高いです。朝に痛みやむくみが治まっていればとくに問題はありません。